本研究の主な目的は、貧困が生じる要因とそれらに関する政策的対応についての考察を踏まえながら、地域間の様々な格差を縮小させる政策が、我が国で拡大傾向にある貧困に対してどの程度の効果を発揮しうるかについて、社会保障制度の効果と比較検討しながら分析を行うことにある。特に本研究で考察の中心となるのは、地域の雇用創出支援策が貧困の削減にもたらす効果の評価である。まず、本年度は分析の第一段階として、日本の各地域の貧困がどのような状況にあるか、また貧困と人々の生活行動はどのように関連しているかについて分析を行い、それらを学術論文としてまとめた。 分析からは、地域内の格差・貧困と当該地域の住民の生活満足度に一定の相関があることが示されており、格差の拡大がその地域の住環境にマイナスの影響を与えている可能性が示唆された。 また、貧困削減策の一つとしてベーシック・インカム政策を取り上げ、政策の導入が、格差・貧困の縮小にどのような影響をもたらすかについて最適課税の理論モデルを基礎として簡単なシミュレーションを行った。現状の生活保護基準相当を国民全員に支給するいわゆる完全ベーシック・インカム政策については、所得税率は50%を上回り負担感は相当強まる可能性が高い。しかしながら、賃金の弾力性がどの程度の水準であるかによって結果は変動するものの、部分べーシッグ・インカム(わが国の生活保護水準×75%分に相当)の支給については、先行研究で示されている賃金弾力性を想定すれば、貧困の縮小に一定の寄与がなされる可能性があることを指摘した。 公的扶助や社会保険が、真に移転を必要とする世帯に機能的に分配されているかについては、国レベルの分析を橘木・浦川(2006)で行っているが、今後、都道府県レベルでの計測を本研究では行い、他の政策効果との比較、関連性の検証を行いたい。
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