本研究の目的は、賃金格差の発生要因を検討するため、マイクロデータ(学校、家計データ)を用い、労働市場以前の人的資本形成、特に学校教育による人的資本形成メカニズムに焦点を絞り、教育の成果、教育制度が労働市場でのパフォーマンスに与える影響を実証的に明らかにすることである。得られた結果は以下の通りである。学校レベルのマイクロデータを用い教育の生産関数を推計した結果、入学時点の能力を一定にして教育投入物の効果を測定した結果、授業時間を除くと他の投入要素は説明力を持たないことが明らかとなった。若年時の情報を利用できるマイクロデータを用い、婚姻と賃金の関係に焦点を当て分析を行ったところ、若年時の学業成績は男性の結婚確率を高め、それは結婚による賃金プレミアムの一部を説明していることが明らかとなった。また、女性については同様の効果が見られないこと、義務教育の授業時間は学歴獲得や就業確率とは相関をもつが賃金への直接効果が観察されないという暫定的な結果を得た。幸い本研究にてデータが蓄積されてきているので、これらを用い、若年時の経験が労働市場に与える効果をより丹念に調べていくことが今後の課題である。
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