1 財務会計の視点からの分析では、日本企業について、期首の純資産に関する保守主義と利益に関する保守主義には負の関係があり、期首と期末の純資産における保守主義の変動幅と利益に関する保守主義には正の関係があることを明らかにした。この結果により、財務会計における保守主義の実務については、すでに同様の結果をえているアメリカ企業との共通性を確認している。さらに、期首と期末における純資産の保守主義を、その変動幅に注目して分析したという点で先行研究から発展しており、これはより短期の測定期間で、利益と純資産における保守主義の因果関係を測定するための契機となる視点である。これにより、本研究の目的の1つにあげた保守主義の指標間の関係に関する分析を進展させることができたといえるであろう。 2 監査の視点からの分析では、日本企業について、監査人は平均的に、企業の継続性に重要な疑義が存在することが明白となった時点で継続企業の前提に関する追記(GC)を適正に開示していることを明らかにした。監査人の保守性という観点からは、訴訟リスクを低減させるために、企業の継続性に関する疑義の重要性が乏しくてもGCを開示する可能性がある。しかし、日本の監査人は訴訟リスクの低減を意識した保守的な判断にもとづいてGCの開示を行っているのではないことがわかったのである。ただし、平均的にはGCの開示時点は適正であるが、場合によってはその開示時点が遅れる場合もあることが明らかとなった。これは、監査人のクライアント喪失による監査報酬の減少などを意識した行動と解釈することができる。この分析により、本研究の目的の1つにあげた監査人の行動や意見形成に影響を与える要因の検証について、1つの証拠を提示することができた。
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