1財務会計の視点からの分析では、主に財務会計における保守主義の機能に関する検証を行った。分析により、(1)財務会計における保守主義は経営者が努力に対するインセンティブを失っている状況においてガバナンスの役割を果たすことを明らかにした。さらに、(2)株式の持合が一般的な状況では企業会計に保守主義が適用される程度が低いのに対して、持合が解消され、機関投資家や外国人株主の割合が増えた近年の状況では、より保守主義が適用されることも発見したのである。また、近年において保守主義の適用が強くなったのは、保守主義に訴訟リスクの低減効果があることを示した欧米企業に関する先行研究の結果とも整合している。それは、日本において経営者等に対する訴訟件数が近年増加していることから、訴訟リスクの低減効果を意識した経営者がより高い程度の保守主義を適用していると考えられるためである。以上の結果は、財務会計における保守主義の重要性を示す証拠といえるであろう。 2監査の視点からの分析では、先行研究で議論されてきた大手監査法人の保守的行動に関する検証を行った。先行研究では、中小規模監査法人に比べて、訴訟リスクが高く名声失墜に伴う損失の大きいこと等を理由に、大手監査法人ほど保守的な行動をとるという仮説が欧米諸国の企業を対象として検証されてきた。本研究では、日本企業を対象とし、(1)大手監査法人は業績が良好な企業に対しては、利益を控えめに計上させることを通じて自らの身を守るという保守的な行動をとることを明らかにした。さらに、(2)財務困窮企業に対しては、なるべくクライアントとして監査を担当しないことを発見した。また、財務困窮企業がクライアントである場合には、財務困窮性の程度が比較的低い状態にある場合でも、継続企業の前提に関する注記を開示させることが分かった。以上の結果は、大手監査法人が保守的な行動を取っていることを示す証拠であるといえるであろう。
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