研究概要 |
本研究の目的は,1990年代初頭以降,社会的関心が高まり,昨今,その導入に停滞感すらある「成果主義」に対して,「その成否を評価する以前に,これまでそもそも『成果』それ自体の探求がなかったのではないか」という問題意識のもと,内容分析の研究手法を用いて,日本企業における「成果」の指す意味内容の変遷を明らかにすることにある。成果主義の現状評価,さらには次の段階に想定されている「ポスト成果主義」の具体的展開を明示し,広く社会一般に対する含意を理論的かつ実践的に引き出すことが本研究の最終目標である。かかる研究課題の解明を目指すステップとして,本年度は,成果主義をキーワードに新聞記事の内容分析を行い,成果主義人事システムの内実と今後の方向について,仮説を構築する予定であった。しかし,成果志向を強めた評価や報酬制度を採用した組織の実態を把握し,ある程度の変革の方向性を見据えた上で文献資料に分析を加えるほうが意義ある提言が行えると考えた。そこで,本調査に協力的なリサーチ・サイト(病院)にアクセスし,インテンシブな聞き取り調査と内部資料の収集を実施した。現時点での仮説的な帰結の1つは,従来から今日までの評価項目の複雑化動向と,その結果生じた問題から今後の評価項目の単純化傾向である。具体的には,評価・報酬制度の成果志向を強化する際,評価結果の納得性を高めるために,評価項目が複雑多様となり,制度適用者の制度に対する理解困難性と,日常業務と人事管理業務の両立困難性が生じていた。その結果,調査対象の病院組織では,最小有効に多様なレベルの評価項目へ修正が模索されていた。特に知識経済下にある今日の日本企業に対して,ナレッジワーカーからなる病院組織における上記の発見事実は示唆的であり,次年度はこの事実の詳細と,それを分析の拠り所に新聞記事や学術文献を用いて成果主義に関する質的内容の変遷を明らかにする。
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