本研究は、ドイツの現行詐欺罪規定を取り巻く解釈論及び判例の動向を手がかりにして、日本の詐欺罪規定がこれから採るべき方向性を明らかにすることを目的としている。近時、日本では判例における詐欺罪の成立時期の早期化傾向が指摘されているが、詐欺罪の成立範囲の拡大が必ずしも望ましいわけではない。そこで、詐欺罪規定の解釈論、特別刑法上の規定との関係、さらには立法論も含めた幅広い視点からの成立範囲の限定付けが必要と考えられる。 今年度は、まず、ドイツの詐欺罪関連規定についての状況を詳しく調べ、その後、日本における最近の詐欺罪関連判例についての検討を行なった。ドイツ刑法における近時の詐欺罪関連規定の新設・改正内容には、従来の基本的な詐欺罪規定よりも詐欺的行為の処罰を前倒しする要素が含まれている(例えば、補助金詐欺についての規定であるドイツ刑法264条は、場面を限定しつつ、危険犯として構成している)。そして、かような状況をめぐって、「欺罔」概念の理解や詐欺罪の本質論が再度注目を集め、一連の詐欺罪関連規定における保護法益が何かが論じられている点も、非常に興味深い。 日本においては、刑法上の詐欺罪規定(246条)の他、特別刑法上にも詐欺的行為に関連する規定が存在する。上述したドイツ刑法の現状との比較法的検討は、日本における詐欺罪の解釈論のみならず、詐欺的行為全般の刑事規制のあり方を考えていく上で、示唆に富むものである。そして、最近の日本の判例の傾向を踏まえつつ、刑法上の詐欺罪規定と特別刑法上の関連規定とめ適用関係や役割分担(住み分け)についてどのように理解するのが適切であるか、またその内容が詐欺罪の保護法益論にいかなる影響を及ぼすか、さらに考える必要がある。これらの点につき今後も継続的に検討していきたい。
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