本研究は、我が国の中小企業経営者の高齢化に伴い急務となった後継者育成という社会的課題に応えるために、中小企業後継経営者のリーダーシップ発揮プロセスを明らかにすることを目的として実施されており、平成19年度は科学研究費による2年間の研究期間の1年目にあたる。本研究の理論的な意義は、リーダーシップを発揮する人間を主体、リーダーシップの影響を受ける人間を外的な客体として分離してきた既存のリーダーシップ論の立場を離れ、リーダーシップを発揮する人間が主体的に自己を客体化するという主体と客体が非分離となる内省経験プロセスに焦点をあてたことである。平成19年度は、そのような焦点を持って研究に取り組んだ結果、リーダーによる内省経験が、リーダーとしての有効性に対して統計的に有意な影響を与えることが明らかになった。本研究の実践的かつ社会的な意義は、我が国では中小企業は企業数の9割を占めており、雇用の7割を支えているという現状があり、その事業承継の大きな不安定化要因となっている次世代の後継経営者育成という課題に対し、後継経営者自身がリーダーとして自己成長するために検討すべき課題となる要因を抽出し、実証データによって説得力のある提言をまとめつつあることにある。本研究における平成19年度の活動は、まず理論研究を通じて基本仮説を導出し、さらに統計調査を中心に基本仮説を実証することに主な研究上の焦点があてられて進行した。これらの研究成果は、さらに平成20年度に引き継がれ、リーダーによる内省経験がどのようにして後継者の経営行動につながるか、どのような要因が内省経験を深めるかに関する調査として継続される予定である。
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