フランスの移民政策、都市政策の変容と移住者団体の役割について社会学、政治学等の分野を中心に網羅的な文献調査を行った。そこから、1.2004年の「差別への闘いと平等のための高等機関(HALD)」設立に象徴されるフランスの「差別」対策においては、移民や外国人を特別に対象としている訳ではないこと、2.2005年の「暴動」もきっかけとなり移住者、移民出身者やマイノリティ集団の被る差別への認識は高まったが、具体的な対策が検討されている訳ではないことが分かった。他方でマイノリティ集団など当事者による情報発信が活発化しており、移住者団体が差別解消において果たす役割も重要性を増している。 また具体的事例についてのデータを収集するため、フランス、パリ市を中心に、女性移住者団体における参与観察を含めた一ケ月の現地調査を行った。ここでは既にボランティア相談員として参与観察を行ってきたパリ市内の団体において、2005年の「都市暴動」後の人員増の枠で仲介者契約を獲得した団体の仲介者らの協力をえて、地域行政と連携した団体活動の実態を把握した。一夫多妻婚世帯への支援など移民コミュニティの社会的権利の向上を目指した活動は、行政の補助金を獲得するなど、一定の評価を得つつある。だがフランス全体の住宅をめぐる困難もあり、被支援世帯の生活条件は改善されたとは言い難い。また職種別の入国審査が行われることになるなど、移民政策の転換が定住者の社会的権利の改善においてどのような影響をもたらすのかについては、引き続き分析を続ける必要がある。 以上の研究の経過をまとめ、女性移住者の活動経歴および団体運営についての聞き取りから、フランスの移民政策の変容と移民の社会参加について考察する論文、また参与観察先団体の一夫多妻婚世帯支援活動の経過についてまとめる論文を執筆し、日本社会学会大会等において発表した。
|