本研究は、グループ経営の有用性・必要性に配慮し、企業グループを構成する会社の取締役のグループの利益を追求する行為が、会社法上、どのような要件のもとで、どこまで許されるべきであるのかを検討することを目的とする。この問題について、EUでは、欧州委員会が2003年に公表した文書において、グループ単位での経営方針の採用・実行を企業グループに認めるため、個別の企業単位では不利益を生じていても、グループ全体で利益となる取引に適法性を認めるための立法措置を講じることが課題とされた。このようなEUの動きが日本の会社法の発展の方向に与える影響は少なくないと考えられる。欧州委員会によるこの課題の提案の背景の一つには、フランスの判例において発展してきた考え方がある。そこで、平成19年度はフランス法の研究を行った。まず、この問題についてのリーディングケースである1985年破毀院判決とその考え方を踏襲するいくつかの判例、およびそのような判例の立場に対する学説の反応を検討した。それをもとに、体系的なコンツェルン法を有するドイツ法における類似の制度との比較を通して、フランス判例法の考え方は柔軟性には優れるが、グループ利益追求行為が許されるための要件を法律上詳細に規定するドイツ法と比べると不明確さが残る点や、ドイツのように個別の会社の損害の補償につき時間的制限を付さない点などの問題点があるという結論を得た。また、フランスに特有な法制度上の事情の検討を通して、前記フランスの判例で問題となっているのは経営者の刑事責任であり、本研究の対象である取締役の民事責任の問題を検討する際には、フランスでの議論がそのまま妥当しない可能性があるという結論を得た。
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