今年度は、企業グループを構成する会社の取締役であっても自己が取締役に就任している会社に対し善管注意義務・忠実義務を負うとされる日本法の下で、取締役のグループ利益を追求する行為がどのように評価されているのかを調査し、前年度に研究したフランス法との比較を行った。日本法の調査にあたっては、主に、破綻に瀕した子会社の救済を決定した親会社取締役の責任が問題となった裁判例と、関連する学説を検討した。日本の裁判例には、子会社救済が失敗した場合でも、財政支援を行った会社と支援を受けた会社が、明確な親子関係と事業の関連性を有する場合、当該支援行為は忠実義務違反に該当しないと判断するものが多い。フランスの判例法では、会社が他社に支援を行うことを決定した取締役の責任を免除する前提として、両会社が「グループ」を構成していることが要求されるが、そこでいう「グループ」に該当するためには、両会社間に「財政上の関係」と「活動の相補性」が存在していることが必要とされる。この点は、前記日本の裁判例の立場と類似する。また、日本の学説においては、支援を行う会社の取締役が当該会社のために行動しており、忠実義務に違反していないと評価されるためには、当該会社が他社への支援によって前者の会社が得る利益が具体的なもの(例えば、子会社の倒産を回避することによる貸付金の回収不能額の拡大防止等)でなければならないとする見解が多数を占める。フランスの判例法では、支援を決定した取締役の責任を免除するためには、支援会社の損失が他の利益により補填されることが要求されるが、学説の多くは、その利益が具体的個別的なものでなく、グループに所属すること自体から得られるものでもよいとする。この点は日本の学説と異なっている。さらに、フランス法と日本法の相違点を踏まえ、日本法のもとでどのような取扱いをしていくことが適切であるか検討を行った。その際にはそれぞれの国において、グループ利益追求行為によりその利益を害されうる少数株主や債権者の保護がどのように図られているかということを考慮することも必要である。
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