研究概要 |
近年,小児がんは,治療法の開発がすすみ,治療成績は著しく向上した。数年後には成人250人に1人は小児がん経験者となる時代がやってくるとも言われている。小児がんの治療目標も,治癒を目指す時代から,治療後のQOLを重要視する時代に変化している。小児がんの治療は長期間にわたり,副作用や生活上の制限も多く,非常に辛いものである。そのため,患児や家族の中には,治療終了後も長期にわたり,抑うつや不安,PTSDなどの心理的問題を抱えている者がいることが指摘されており,心理的支援体制の確立が急務である。しかし,患者・家族・家族が抱く不安の内容や生活上の困りごと,また,心理学的問題の関連要因を明らかにするといった心理学的研究は少なく,そのため心理的支援方法の開発も十分なされていない。特に,治療終了後の母親については,再発不安を強く抱いていることが指摘されているものの,我が国においては,その心理的苦痛を実証的に検討した研究は少ない。また,母親の心理的苦痛は,子どもとの関わり方や,子ども自身にも様々な影響を与えることが推測される。そこで,本研究では,これまで実証的な心理学的研究がほとんどなされていない治療終了後の小児がん患児の母親を対象とし,まず,母親が抱く再発不安といった心理的苦痛や養育態度について明らかにする。そして,これらが患児の心理的適応に与える影響についても調べることとする。また,その結果をもとに,現在の小児医療では支援体制が十分確立していない治療終了後の患児の母親への心理的支援プログラムの開発を行うこととする。本研究によって,治療終了後の母親の心理的適応や養育態度に注目する必要性が明らかになることで,これまでほとんど注目されなかった治療終了後の母親に対する心理的支援体制の整備につながると考えられる。さらに,母親への支援を通じて,患児の心理的適応の向上にも貢献することも期待できると考えられる。
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