研究概要 |
近年,小児がんの治療成績は著しく向上し,治療目標も治癒を目指す時代から治療後のQOLを重要視する時代に変化している。患児や家族の中には,治療終了後も長期にわたり,抑うつや不安,PTSDなどの心理的問題を抱えている者が存在し,心理的支援体制の確立が急務である。しかし,患者・家族の心理学的問題を明らかにする研究は少なく,心理的支援方法の開発もなされていない。特に,治療終了後の母親については,再発不安を強く抱いていることが指摘されているものの,我が国においては,母親の心理的苦痛を実証的に検討した研究は少ない。また,母親の心理的苦痛は,養育態度や子どもの心理適応にも影響を与えることが推測される。そこで,本研究では,治療終了後の小児がん患児の母親を対象とし,まず,母親が抱く再発不安といった心理的苦痛や養育態度について明らかにし,これらが患児の心理的適応に与える影響についても調べた。その結果,小児がん患者の母親は治療終了後も長期にわたり,治療が患者の心身に与える悪影響や再発を強く心配しており,その心配が母親自身の心理的適応および養育態度に大きく影響していることが明らかになった。具体的には、患者の身体状態に対して過度な心配を抱く母親は,抑うつが高く,心理学的介入が必要なレベルと考えられた。また,養育態度については,患者の身体状態を過度に心配している母親は過保護で一貫性のない養育態度となる傾向にあることが示され,さらには患者の抑うつや学校適応といった心理的適応に悪影響を及ぼすことがわかった。以上のことから,我が国においても、治療終了後も子どもの身体状態を心配するために心理的苦痛を抱えている母親が存在することが示され,母親への心理学的介入の必要性が示唆された。さらに,母親の心理的問題は患者の心理適応にも影響することから,母親へ支援をすることで,患児の心理適応の向上につながると考えられた。
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