研究計画に従い、1930年代のスウェーデンにおけるミュルダールの福祉国家経済思想について研究を進めた。とくに、出生率低下という人口問題に対するミュルダール(夫妻)の分析と政策論について、スウェーデンのみならず諸外国との比較検討を進め、多くの文献を調査した。 研究を進めるうちに明らかになってきたこと、あるいは、さらに検討を進めるべき課題がいくつか出てきた。以下のとおりに列挙できる。(1)出生率低下問題は、当時、産業化の進んだヨーロッパ諸国において、ある程度共通するものであったが、それに対する政策論には多様性があったこと。(2)スウェーデンの人口論議において、ミュルダール夫妻の見解は必ずしも一枚岩ではなく、夫妻の間にも力点の相違があったこと。(3)本研究対象であるG.ミュルダールの人口論の特徴的概念として、「消費の社会化」を抽出できること。(4)ミュルダールの人口論の経済学的背景には、ストックホルム学派やスウェーデンにおける1927年矢業委員会の思考があり、ミュルダール人口論の検討は、ストックホルム学派とケインズ(ケンブリッジ学派)との関係という長らく問われ続けてきている学史的問題の解明にも示唆を与えうること、などである。 本年度の研究成果は、上記の論点を展開する手がかりをつかんだにすぎない。本研究は平成20年度までの2年間の継続研究である。本年度に獲得した知識や発想を基礎として、期間終了までには論文発表を中心に研究成果を公表する予定である。
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