平成20年度は、平成19年度に引き続き、EU及びその加盟国、北米、日本における広義の出入国管理分野(移民政策や難民政策を含む外国人受け入れ関連政策一般)での政策形成及び国家間協調の動向についての分析/研究を行った。1.まず、平成19年度に欧州で行った調査をもとに、EU規模での加盟国間協調(「シェンゲン・レジーム」)の特殊性について批判的に検討した。また、同時に、EUを発信源とする、出入国管理のグローバル秩序の萌芽を指摘するに至った。2.この新しいグローバル秩序は、主に高度技能外国人の受け入れ政策(協調)に特に見出せるという視点から、本年度は高度技能者受け入れに関する調査を米国で行った。この結果、EUと米国とで近似する外国人受け入れシステムのあり方が明らかになった。これは、国籍による受け入れという慣行が徐々に廃れ、これに代わって、高度技能者を積極的に受け入れる一方で単純労働者の受け入れを(国籍その他の条件に拠らず)極力抑えようとする選別のシステム化として捉えられる。3.この選別のシステムはトランスナショナルな試みとしてではなく、(主な)EU加盟国や米国の国内的需要の観点に照らして有用なものとして機能していることが分かった。また、人の越境移動の国際共同管理というアイディアは、潜在的な移民送り出し国との折衝(「移民外交」)を基礎とする制度形成の一つの側面であることも分かった。4.これまでの知見をもとに、EUや米国の動向との比較の視点から日本の出入国管理政策を考察した。日本は、移民や難民の政策を含む出入国管理一般を内政と捉える視点が根強く、未だに外交政策の一部としての理解が浸透していない。EUや米国を中心とする先進世界が外交の一部として人の越境移動を取り扱うようになってきている現在、戦略のない政策策定の動向は日本に特有のものである点、その一因として、伝統的な地域安全保障上の問題と外国人問題との関連が、世界の他の先進地域に比べてより直接である点を指摘した。
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