本年度は、執行特権に関する憲法起草者の意図を探り、執行特権の歴史的展開を探ることにした。具体的には、アメリカ憲法の制定期における憲法起草者の考えを考察して、いかなる特権として考えられていたのかを明らかにすることである。 この目的を果たすためには、制憲期の資料を集めることが重要になってくるため、データベースで可能な限り入手し、それでも手に入らないものについてはアメリカに行って収集することにした。 その結果、とくに重要な資料として「パシフィカス対ヘルビディアス論争」におけるハミルトンの記述と、イギリスとアメリカの比較をしながらアメリカのあるべき姿を説いたジェファーソンの手記を集めることができた。 このうち、ハミルトンの記述においては、制憲者が執行権の概念をどのように考えていたかを探ることができ、執行特権が執行権の範疇に入る可能性があったことが明らかになった。一方、ジェファーソンの手記によれば、アメリカはイギリスと異なり、アメリカにおいては執行特権なる特権が認められにくいとして、執行特権の存在に懐疑的であったことがわかった。 また、以上の研究目的と間接的に関連する問題として、最近のアメリカにおける諜報改革がある。つまり、執行権内部において効果的な諜報活動を行うための改革である。だが、これは法律によってなされたため、執行権の侵害になっていないかを考えなければならない。これについては、R・Posnerの書籍を中心とした検討を行った。
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