本年度は、執行特権と権力分立の関係を中心に研究を進めながら、研究を一通りまとめる作業を行った。権力分立制に関する最近の議論をみてみると、アメリカではディパートメンタリズム、カナダでは対話理論などの権力分立論が盛んであることから、まず、これらに関する資料収集を行った。それを基に、権力分立原理から執行特権が導かれるロジックを明らかにすると同時に、権力分立原理によって執行特権の限界が定められることについて検討した。権力分立原理からすると、憲法上執行府に付与された自律的領域があり、この分野に関する執行特権は優越的であるものの、その他の領域での執行特権は他の機関の権限と比較衡量して調整することになる。換言すれば、執行府の自律領域を明らかにすることが、執行特権の限界を明らかにすることにつながる。そのため、ディパートメンタリズムなどの議論を参考にしながら、自律領域の明確化をはかった。このように、アメリカの執行特権の原理と限界を明らかにした上で、日本に与える示唆についても考察した。日本には、執行特権と呼ばれる特権は存在しないが、法律で同等の権限が内閣に与えられている。そこで、適宜参考資料を収集しながら、日本における情報秘匿の制度を明らかにし、アメリカとの違いに言及しつつ、比較衡量の方法の問題点などを提起した。最後に、以上の研究成果をまとめるために、本の執筆に取り掛かり、平成20年11月に『アメリカ憲法と執行特権』(成文堂)を公刊した。
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