本年度は、本研究課題に関係する文献による理論研究と国内外での実態調査をペースに研究を行った。理論研究では、Porterをはじめとする産業組織論やポジショニング論、中堅企業を対象とした研究を体系的に整理し、本研究課題に適用するための動態的な理論を模索した。しかしながら、本研究課題をとらえる理論は広範であるため、今後も適用可能な理論、文献を渉猟し、新たなモデルを構築する必要がある。 他方、実態調査では、台湾における筆記具業界の現状や、台湾企業の競争優位を調査した。また、タイの筆記具メーカーであるコーリン鉛筆や国内筆記具メーカー、国内ペン先メーカー等の部品メーカーへの調査も行い、日系筆記具メーカーの競争優位を解明しようとした。 これらの研究成果として、次のような仮説が得られた。ひとつ目は、日系筆記具メーカーの競争優位は技術開発と蓄積、そして製品開発能力にあるのではないか。他方で、ふたつ目には、ペン先や軸などの部品メーカー等の協力企業や競合企業とのネットワークの存在が競争優位に影響を与えているのではないか。しかしながら、上記仮説は限られた数の企業や関係者へのインタビューによって得られたものであるため、今後さらなる実証を重ねる必要がある。 実態において、中堅・中小企業の海外展開はきわめて進展しており、またグローバルな競争優位を保持する中堅・中小企業も多い。他方で、中堅・中小企業の海外展開に焦点を当てる研究は見られるが依然数が限られているため、今後も日系中堅・中小企業のグローバルな競争優位に関する研究を進める必要がある。
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