研究概要 |
【研究目的】本研究の目的は,比較文化的な手法を用いて,本邦における向社会的行動の特徴と機能を記述し,それらの行動が社会不安に与える影響を検討することであった。今年度は,日本と比較対照国のイギリスにおいて頻繁に経験される社会的場面の選定を行い,その場面を実験室で再現するためのシナリオを作成することを目的とした。 【研究方法】はじめに,日本の大学生458名と,イギリスの大学生438名を対象に,(1)Social Phobia Scale(2)Social lnteraction Anxiety Scale(3)Taijin Kyofusho Scale(4)過去一週間中に体験した社会不安場面に関する自由記述課題(5)(個人の文化的背景に関する質問を含む)フェイス項目から構成される質問紙調査を実施した。その後,社会不安を喚起する程度が国ごとに大きく異ならず,かつ両国を通じて経験頻度の高い場面を選定し,その場面に関するシナリオを作成した。シナリオの場面を実験室で再現・ビデオ録画し,複数名の社会不安障害の専門家による生態学的妥当性の確認を行った。 【研究成果】調査の結果,社会不安場面を表すほとんどの項目で日本の大学生がイギリスの大学生よりも有意に高い不安得点を示した。しかし,「他の人に見られている時,震えてしまうのではないかと心配になる」などに代表される身体症状に関する項目と,「よく知らない人と付き合うのは緊張する」などに代表される初対面の人との交流に関する項目では,両国の社会不安得点がほぼ同等であることが確認された。自由記述の結果から,特に初対面の人との交流場面に関する不安が列挙される頻度が高かったため,初対面の人との会話場面に関するシナリオを作成し,実験室場面で再現した。再現された場面は十分な生態学的妥当性を有することが確認された。
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