研究概要 |
【研究目的】本研究の目的は,比較文化的な手法を用いて,本邦における向社会的行動の特徴と機能を記述し,それらの行動が社会不安に与える影響を検討することであった。今年度は,初対面の人との会話場面を実験室で再現し,日本と比較対照国のイギリスにおいて生じる行動レパートリーを比較し,それらの行動が社会不安に及ぼす影響を評価した。 【研究方法】日英の大学生各20名を対象に,初対面の人と15分程度の会話を維持する実験を行った。実験協力者は,実験室に入室後,社会不安の高さを測定する調査票に回答した。その後,生理機器を装着し,心拍と血圧を2分間隔で測定した。測定と同時に,主観的不安の度合を0-100で記録用紙に記入した。 5分間の安静期の後,実験補助者が入室した。互いに自己紹介を行い,時間終了の合図があるまで会話が続けられた。相互作用の様子はビデオに録画された。 実験終了後,3名の評定者がビデオ映像を用いて行動レパートリーのチェックを行った。主観的評定・行動評定・生理指標に基づき,向社会的行動と社会不安の連関が日英間で比較された。 【研究成果】実験の結果,主観的不安は日本人対象者で有意に高かったが,生理指標では明確な差は見られなかった。行動評定においては,視線の使い方や笑いなどに顕著な差が見られ,それぞれの行動が,両国間で社会不安の低減に異なる効果を及ぼしていることが示された。このことから,社会的スキル訓練等の介入を行う際には,文化的背景を十分に考慮し,有効な行動を選択する必要があることが示唆された。
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