目的: 本研究では、8歳から40歳の健常者を対象に、顔の感情認識プロセスに於ける脳機能の男女差、及びにその発達過程に伴う変化について観察・調査することを目的とする。 研究方法: 8歳から40歳までの健常者30人を対象に、機能的磁気共鳴映像法(fMRI)を用いて、間接的な顔の表情の感情認識課題(すなわち、感情表現を含む顔写真の性別判定が直接的課題)に於ける脳活動を記録した。被験者のうち半数の15人は男性(8歳から40歳、平均年齢19歳)、残りの15人は女性(9〜34歳、平均年齢23歳)であった。この15人ずつのデータを比較することで、空間的作業記憶に於ける脳機能の男女差及び、加齢によるその機能の変化について調査した。 結果: 男女両グループともに、顔の感情認知に係る脳部位(辺縁部、帯状回や紡錘状回など)の活動が見られたことから、課題・測定の妥当性が確認された。男女比較の結果、女性実験群に於いては、前頭部や側頭部でより高い脳活動が観察されたのに対し、男性実験群は、小脳・辺縁部にてより高い脳活動の傾向が見られた。しかし、結果発表にあたり、データ収集時の時間的制約により、男女両グループの年齢の分布にバラつきがあることが指摘されたため、一部のデータを、ロンドン精神医学研究所の既存データの中でより年齢的に適合したものと取り換えることになった。現在、この新しいデータセットでの再分析を実施中である。 結論: 顔の感情認知に係る脳機能には、有意な男女差が見られる。このような男女差や、発達過程と男女差の交互作用を明らかにすることで、特定の精神疾患の発症の男女差(例えば、うつ病やパニック障害のような不安障害が女性に多く、自閉傾向は男性に多いなど)の、生物学的根拠の有無とその意義を考察できる。
|