1.新しい批判的教育学の構想(目的と課題の把握):新しい批判的教育学の目的は、教育理論や実践が人々を自律的な主体として形成することにどのように寄与したかを示すことによって、古典的な批判的教育学(解放的教育学)が果たしてきた近代的な主体形成の過程やその役割を解明することである。そこにおける新しい批判的教育学の課題は、古典的な批判的教育学が見過ごしてきた教育の発展過程と自己統治の関係からいかに距離をとるか、である。 2.新しい批判的教育学と古典的な批判的教育学(解放的教育学)の相違点: (1)批判のポジション:新しい批判的教育学は、(従来のように)批判的知識人として、市民を導くと同時に真理の王国の門番という役割を担うのではなく、現在を分け持つ者として倫理的態度において批判的距離をとることを担う。 (2)批判の捉え方:古典的な批判的教育学における批判は、理想化された位置から現実を捉え、そこに欠いている部分を発見し指摘し、実践を導くことであった。それに対し、新しい批判的教育学における批判は、現在の外部からではなく、そのなかに身を沈めることによって、現在の枠組みや境界を再考することである。 3.新しい批判的教育学の方向性と可能性:新しい批判的教育学は、フーコーの生権力論を経由することによって、自律的主体であることや自己決定的主体であることが一方で人々を解放する原理であり、他方で自己コントロールへと導く原理であるという相互依存に自覚的であり、古典的な批判的教育学が位置づいていた実践を導く理論から不快で倫理的態度において生み出される理論へと向かっている。このような新しい批判的教育学は、古典的な批判的教育学を捉えなおす理論枠組みを提示している。
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