1.新しい批判的教育学とホネット批判理論:フーコーの批判概念に依拠する新しい批判的教育学は、近代化の過程とともに批判的態度が誕生したと捉える。なぜなら、近代化とともに進展してきた統治は、一方で権力にもとづく巧みな人間形成を促してきたが他方で「そこからのがれること」を考える批判的態度を生んできたからである。そのため、批判とは、独立した自律的なことではなく、他律的で依存的であると捉えられる。他方で、ホネットは、日常を現在とは異なった層で提示する「意味地平を切り開く」ことが批判であると捉える。承認論を展開するホネットは言語化以前における日常のかかわりや道徳的経験、アイデンティティ形成に焦点をあてている。そのため、自己の形成過程におけるく存在の否定〉に批判のポテンシャルを見出している。2.批判と人間の関係:新しい批判的教育学は、現在を分け持つという経験から批判的態度を捉える。また、経験的テキストを分析対象にすることを提案している。ホネット批判理論は、存在を否定された経験や不正だと感じる感受性を中心に置き、それらを物語的な記述やメタファーを用いながら表現し、現在とは異なる意味連関を再提示する。新しい批判的教育学とホネット批判理論は、パーソナルな経験を重視することに共通性がある。 3.再び構想される批判的教育学:パーソナルな経験や現在を分け持っことから生まれる批判的態度は、否定的な出来事や研究者自身が巻き込まれていることを考察の対象にする。人間形成に織り込まれた隠れた力を顕在化する批判的教育学は、損なわれた承認関係を病理としてとりあげることも可能である。つまり、再び構想された批判的教育学は、人間形成に関する受動的な経験や経験的テキストの解読を通して、通常は隠されており見えていないもう一つの世界を提示することになる。
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