近年、幼児でさえも演繹推論能力を持つことが徐々に示されてきている。しかし、研究としては少数であり、まだ不明確な部分が多い。本研究の目的は、幼児の演繹推論に関して以下の2点について検討することである:(1)幼児の演繹推論に命題内容が及ぼす影響、(2)幼児のカテゴリカルな命題での演繹推論を可能にする要因の検討。 (1)に関して、5歳児30名を対象に、因果関係的な条件命題(例:砂遊びをする⇒手が汚れる)とカテゴリカルな条件命題(例:ある生き物が金魚⇒それは水に住む)それぞれでの演繹推論遂行の違いを検討した。その結果、明確な結論を導ける質問(例:ある生き物は水に住まない。その生き物は金魚か?)ではカテゴリカル命題より因果命題で遂行が良くなるが、「結論は出せない」という回答が正しい質問(例:ある生き物は金魚ではない。その生き物は水に住むか?)では因果的命題よりカテゴリカル命題で遂行が良くなるという交互作用が示された。この結果から、幼児であっても敏感に命題内容に反応し、演繹推論の遂行が変化することが示されたといえる。 (2)に関して、5歳児25名を対象に、経験的な内容の命題と反経験的な内容の命題(例:ある生き物が鳥⇒それは空を飛ぶ)での演繹推論とワーキングメモリーおよび抑制制御の関連を検討した。その結果、ワーキングメモリーは両命題での演繹推論と関連し、抑制制御は反経験的な命題での演繹推論のみと関連した。この結果から、幼児のカテゴリカル命題での演繹推論を可能にする要因の一部が、ワーキングメモリーや抑制制御であることが示された。
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