近年、幼児でさえも演繹推論能力を持つことが徐々に示されてきている。しかし、研究としては少数であり、まだ不明確な部分が多い。本研究の今年度の目的は、幼児の演繹推論に関して以下の点について検討することである:(1)カテゴリカルな命題での演繹推論の発達、(2)幼児のカテゴリカルな命題での演繹推論に及ぼすふりの設定の影響。 (1)に関して、3歳児27名、5歳児29名を対象に、幼児にとって経験的なカテゴリカル命題(例:ある生き物が金魚⇒それは水に住む)と幼児の知っている事柄と矛盾する(反経験的)カテゴリカル命題(例:ある生き物が金魚⇒それは空を飛ぶ)それぞれでの演繹推論遂行の違いを検討した。その結果、全体的に3歳から5歳にかけてカテゴリカル命題での演繹推論遂行が向上するが、いずれの年齢でも経験的な命題より反経験的な命題での推論が困難であることが示された。この結果は、幼児期のカテゴリカル命題での演繹推論の発達を明らかにすると共に、彼らの推論の限界を明らかにした。 (2)に関して、前述と同様の参加児を対象に、反経験的なカテゴリカル命題での演繹推論に及ぼすふりの設定(課題の前に「不思議な星にいるふりをするよ」と教示する)の影響を検討した。その結果、5歳児ではふりの設定が反経験的な命題での演繹推論遂行を促進するが、3歳児ではそのような影響は見られなかった。この結果から、ふりの設定は幼児の演繹推論を促進するが、その影響は年齢により異なることが明らかとなった。
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