研究概要 |
アメリカの医療保障システムは、他の先進諸国と共通に医療費の膨張という問題を抱える一方で、他の先進諸国とは違って国民全体を対象としだ医療保険制度がなく、21世紀に入ってからの無保険者・医療保障の不安定層の拡大という問題も抱えている。これらの問題は、雇用主である企業にとっては医療給付コスートの負担増、経営への圧迫材料として捉えられ,個別的な給付改革を実行している。したがって、アメリカ型医療保障システムは、実態としてそれを規定している個別的企業の運動から分析する必要がある。本年度の研究では、製造業に代わって雇用の受け皿になっている小売業・サービヌ業に焦点を当てた研究を行った。これらの企業でめ医療給付戦略やぞの給付内容・条件などがアメリカの医療保障の方向性に与える影響は大きく、具体的にはウォルマートは、21世紀における産業再編・労働編成の典型と考えられ、またそこでの医療給付戦略を検討することで、今後のアメリカ型医療保障システムの再編の萌芽を見出しうる可能性がある、と考えたからである。 この研究によって以下のことを明らかにした。ウォルマートは、従業員向けの医療給付制度を整備し、医療給付改革を行ってきているが、賃金と比して依然として重い被用者の保険料負担や高額な免責金額のプランである「消費者主導型医療プラン」の導入などによる改革は、必ずしも医療保険に加入でぎないあるいは不十分な医療保障しか受けられない被用者を生み出している。ただこれはウォルマートだけの問題ではなく、医療保障システムの中核的役割を担ってきた雇用主を通じた医療俣障が問題視される背景には、アメリカの産業・雇用構造の変化がある。すなわちもともと医療給付の提供率が低い、あるいは不十分な業種・職種が雇用の受け皿として拡大し、そのことが医療保障の不安定層の拡大につながり、アメリカ型医療保障システムの再編を必然としている。
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