平成19年度は、米国大学の社会貢献理念の歴史的形成過程を解明するために、20世紀初頭ウィスコンシン大学拡張部の事業担当者たちの思想と実践を分析する作業を行った。大学上層部の人々だけでなく、社会貢献活動に携わった担当者に注目することで、社会貢献理念の重層的な構造を明らかにすることをねらいとした。 1.国内調査 『マッカーシー文書』『ヴァンハイス文書』『ウィスコンシン歴史雑誌』(立教大学・同志社大学所蔵)を活用して、史料の整理と予備調査を行った。 2.海外調査 ウィスコンシン州とオハイオ州で調査を実施した。ウィスコンシン州では、大学アーカイブスおよび州歴史協会で一次文献と写真を入手するとともに、大学拡張史研究者ジョンソン氏およびウィスコンシン大学教育学部ネルソン准教授と意見・情報を交換して、有益な示唆が得られた。 3.研究成果 分析の結果、大学拡張部のマネージメントを担ったレイバーとライティという大学拡張事業の専門職が、思想や立場の相違を乗り越えて協調することで、大学による社会貢献活動を地域に浸透させていった経緯が明らかとなった。研究成果の一部は、「大学拡張部における専門職の意義-レイバーとライティを中心に-」(全日本大学開放推進機構『大学開放フォーラム』第1集)として平成20年7月刊行予定である。また、これまでの研究成果をまとめ、収集した写真と史料を所収して『アメリカの大学開放-ウィスコンシン大学拡張部の生成と展開』(学術出版会)として単行書を刊行するべく、作業を進めている。今後は、1920年代に登場した非営利産学連携組織に焦点をあて、産学連携を推進した大学人の社会貢献理念を探求する方向に、研究を発展させる予定である。
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