平成20年度の研究成果として、第一に、米国大学の社会貢献理念の形成過程を明らかにするために、ウィスコンシン大学を事例として、1890〜1910年代のアメリカ大学拡張運動の生成過程を明らかにした。大学の社会貢献理念とは、既存の知識や技術を提供するだけではなく、社会の埋もれた課題を発見し、社会的な営みや人間関係を取り込みながら、大学の専門的知見によってそれらの課題を解決することであった。社会貢献を実行するには、大学としてのビジョン、事業化するためのシステム、さらに、システムを運用するマネージメントが必要であり、これらをつなぐ専門職が重要な役割を果たしていた。これらの成果は、『アメリカの大学開放』(日本学術出版会)、「大学拡張部における専門職の意義」(大学開放フォーラム第1集)にまとめた。第二の研究成果として、社会貢献の一形態としての産学官連携組織の形成過程を、Wisconsin Alumni Research Foundation (WARF)が推進するWisconsin Institutes for Discovery (WID)の設立計画を中心に解明した。WIDは、大学と民間研究機関の共同で創造的な研究シーズを生み出し、さらに、公共空間を形成して最先端の研究成果を地域住民に開放することをめざしている。これにより、ウィスコンシン・アイディアとして知られる社会貢献理念を、産学官連携という今日的営みに継承し、生涯学習を推進する構想が明らかとなった。これらの研究成果は、中部教育学会第57回大会および日本社会教育学会第55回大会で報告し、「アメリカにおける産学官連携と生涯学習」(南山短期大学紀要第36号)にまとめた。WIDの本格的な活動開始は2010年以降のため、今後の展開を追跡調査するとともに、設立母体であるWARFの歴史的役割について研究を深める必要がある。
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