申請者は前年度に引き続き米国ブルックヘブン国立研究所のRHIC加速器を用いたPHENIX実験に参加し、RHICエネルギーの金・金衝突で申請者が観測したJ/Ψ収量抑制に関する現象論的理論モデルを構築した。RHICエネルギーで成功を収めている相対論的流体計算に基づく衝突後の系(クォークグルオンプラズマ)の時空発展を考慮し、J/Ψの抑制パターン(衝突係数依存性)からクォークグルオンプラズマ中でJ/Ψが受けるカラー遮蔽効果を検証し、J/Ψの抑制が始まる温度・パートン密度を算出する事に成功した。この一連の研究は申請者が中心となって投稿論文として纏め上げられ、Phys. Rev. Cに掲載された。さらに、申請者は2つの国際会議と1つの国内物理学会で成果発表を行った。 申請者は今年度より欧州素粒子原子核研究所(CERN)のLHC加速器を用いたALICE実験での研究を開始した。LHCは2008年から稼動開始予定であり、ALICE実験でのクォーコニウム測定にはクォーコニウムから崩壊する電子対を同定する遷移輻射検出器(TRD)の早急な完成と円滑なオペレーションが必須であった。申請者は2007年度、TRDの製作が進められているミュンスター大学に滞在し、TRDの製作を進めると同時に読み出し回路の動作確認を行い、TRDを制御するソフトウェアー開発を行ってきた。 また、申請者は日本で同様の読み出し回路のテストベンチを構築し、継続してソフトウェアー開発を行ってきた。2007年11月には、CERNのPSビームラインでTRDのテスト実験が行われ、申請者はそれに参加し、申請者が一部開発したソフトウェアーの動作確認がチェックされた。このテスト実験はTRDの性能評価を行う上でも重要であり、性能評価のためのデータ解析は現在進行中である。
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