まず、波長可変CW単ーライン炭酸ガスレーザーによる亜酸化銅における1sパラ励起子検出を行う配置で実験を立ち上ることで、パラ励起子1s-2p遷移誘導吸収量の100ナノ秒から10マイクロ秒における時間分解測定が可能となった。励起には、当初予定していたQスイッチYAGレーザーの前に、単一周波数発振色素レーザーの音響光学素子による切り出しを用いて安定な励起子生成を行い、励起子検出系の最適化を図った。CW炭酸ガスレーザーの出力は、セレン化亜鉛を用いた音響光学素子を使用することでパルス的に切り出しを行った。検出器の電源など低雑音化を進め、雑音に対する誘導吸収信号として6桁台に達する小さな信号検出を実現した。また、時間分解能70ナノ秒を達成した。この結果、密度に依存する励起子の消失を排除した低密度極限での1sパラ励起子の寿命を測定することが可能となり、実際に数百ナノ秒からマイクロ秒に達する長い寿命を有することを確認した。さらにその温度依存性を測定して寿命の機構解明を進めた。 次に、パラ励起子密度の励起強度依存性が飽和傾向を示した実験結果について、励起子の3次元的拡散や寿命の温度依存性を考慮した励起強度依存性の数値計算を進めた。実験との比較から、1sパラ励起子の衝突誘起非輻射緩和のレートが、理論的予想に反して1sオルソ励起子と同程度の大きな値であることを見出した。さらに、その緩和レートに温度依存性がないことも明らかにし、量子力学的な散乱過程との関連を議論した。 また、励起子吸収イメージング実現のために、現有装置であるMCT2次元検出器を立ち上げ、パルス化した炭酸ガスレーザー光を同期検出した。しかし、十分な時間解能を維持した上での吸収イメージ検出は、素子の背景的計数量を考慮すると難しいことが判明した。そこで単-のMCT検出器を用いた2次元的な走査によるイメージングの準備を進めている。
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