本研究の目的は、共振器中で増強されたマイクロ波の定在波を時間的にスイッチすることで、その中を通過する極性分子気体を減速し、そのまま定在波中に捕捉してミリケルビン領域の低温分子気体を得ることである。この方法では、マイクロ波によるacシュタルク効果を利用することで、静電場・静磁場と違って最低エネルギー状態にある分子に対しても真空中にポテンシャルの極小を提供することができる等の利点がある。本年度では、まず減速に使用するマイクロ波共振器として適した構造を比較検討し、共振器の開発を行った。最終的に作成した共振器は円形導波管の両端を金属メッシュで塞いだもので、導波管側面からアンテナを通じてマイクロ波を導入できる。この共振器の性能評価を行い、13-19 GHzの範囲で3000程度のQ値が実現できていることを確認した。また、真空チャンバー内にこの共振器を設置し、共振器に20Wのマイクロ波が問題なく導入できることを確認し、メッシュを通じて分子ビームが共振器を通過できていることも確認した。現在は、この共振器内で増強されたマイクロ波を用いて室温の分子ビームの運動方向を変化させ、その影響を質量分析計で観測する実験を行っている。また、減速・捕捉を行う上で必要な数Kまでの予備冷却を行うため、4K程度のヘリウムガスと衝突させて予備冷却を行う装置を作成中である。本年度での研究の完結には至らなかったが、今後も継続して分子ビームの減速・捕捉の実験を行っていく予定である。
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