研究概要 |
本年度は研究計画に従って短期的成果を目指す頂点作用素超代数上の跡公式の導出及び長期的視野に立って頂点作用素代数から得られる圏の構造について,二つの研究を同時並行的に行った。前者の跡公式の導出については,偶元が与える一つ及び二つの随伴作用素の積の頂点作用素超代数上の跡公式を明示的に求め,有限群論草津セミナーの報告集に発表した。当初,これまで知られている導出方法を単純に適用すれば公式が得られると考えていたが,超代数まで一般化した場合にはそれまでの方法がそのままでは適用できないことが分かった。そこでこれまでの計算経験を生かし,ゼロモード代数を求める際の計算方法を応用することでこの困難を解決し,とりあえず二つの積までは跡公式を導出できた。この結果はベビーモンスター頂点作用素超代数の研究にも応用することができる。計算量は増えるが,まだ跡を取る作用素の数を増やすことが可能なため,今後結果をさらに改良して学術誌に発表する予定である。 頂点作用素代数から得られる圏,特にテンソル圏については,近年非有理型の頂点作用素代数の研究が進んでおり,その中でもいわゆる対数型共形場理論に現れるC2有限性を満たす頂点作用素代数に対してまでテンソル積の概念が拡張されつつある。そこで最先端のテンソル圏を調べるべく,対数型の例と目されているトリプレット頂点作用素代数の表現論を永友,土屋両氏と研究し,現在までに付随するアーベル圏の構造まではほぼ明らかにできた。通常の加群とは異なる対数型加群として射影被覆を具体的に構成し,得られる表現の圏がある量子群の表現の圏と同値であることが分かってきた。この結果自体は数理物理で予想されていたが,厳密に頂点作用素代数を使って証明したのはこれが初めてと思われる。今後は共形場理論の手法を用いることで未だ決定されていないテンソル圏としての構造まで踏み込んで研究を行う。
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