本年度は研究計画に従って短期的成果を目指す頂点作用素超代数上の跡公式の導出と応用、及び長期的視野に立って頂点作用素代数から得られる圏の構造について、二つの研究を同時並行的に行った。 前者の跡公式の研究では、これまでに得られた跡公式をベビーモンスター頂点作用素超代数に応用することで、その自己同型群であるベビーモンスターの2A元と、ベビーモンスター頂点作用素超代数に含まれるN=1c=7/10ヴィラソロ頂点作用素超代数と同型な部分代数との間に一対一対応があること示し、この成果を研究集会「有限群・頂点作用素代数と組合せ論」にて発表した。 後者の頂点作用素代数から得られる圏、特にテンソル圏については、近年進展が目覚しい非有理型の頂点作用素代数から得られるテンソル圏の構造を調べるべく、C2有限な頂点作用素代数の表現から得られるアーベル圏についてまず研究を行った。特にC2有限であるが有理型ではない頂点作用素代数の無限系列であるW(p)代数の表現から得られる圏を決定し、そのテンソル圏の構造を調べる基礎研究を永友清和、土屋昭博両氏と行った。部分的ではあるが、これまでに得られた成果を日本数学会2008年度秋季総合分科会にて発表した。その後、関連する研究を調べる中で、予想とは相反し、W(p)の表現から得られるであろうテンソル圏はブレイディングを持ち得ない可能性が判明した。これまでの研究から、非有理型の頂点作用素代数から得られるテンソル圏はこれまで知られている理論とは異なる定式化が必要であることが明らかになった。今後この方面の研究はより重要性を増すものと考えられる。
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