低温で相関のある自発的な強誘電・強磁性転移が始めて観測されたマルチフェロイック酸化物であるCoCr_2O_4の分光学的研究を行うために、応答高純度のバルクCoCr_2O_4多結晶体およびPLD法によってCoCr_2O_4の薄膜(690nm)をMgO単結晶基板上に作成した。この薄膜は磁性およびX線回折の結果からはバルク試料と同等の結晶が生成していることを確認した。そしてテラヘルツ時間領域分光を行い複素誘電率の温度依存性を詳細に調べ、誘電率がフェリ磁性転移温度近傍で誘電率が減少するのを見出した。このような温度依存性はスピンがらせん状に配置し強誘電転移する兆候に対応する。また50Kと26K付近で誘電率の特徴的な変化を観測した。これらは短距離スピン螺旋秩序と長距離秩序の競合した結果生じたものと考えられる。 また比較研究としてフェリ磁性、強誘電性を持つマルチフェロイック酸化物であるMnCr_2O_4の多結晶体および薄膜を作成し、多結晶試料と薄膜試料の構造や磁性などの基礎測定を行った。またバルク試料ではあるがラマン分光によって温度依存性を測定した。その結果フェリ磁性転移温度近傍で中間層の存在を示唆する信号を見出した。まず可視領域の透過スペクトルを測定し、1.5eVと2.5eV付近にd-d遷移に起因すると思われる吸収を観測した。配位子場によって微小な構造変化に敏感に応答することが予想されるのだが、顕著な温度依存性は見られなかった。
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