生命はいかにして自らを組織化し、自発的な運動を行っているのか? その壮大な謎に迫るために、統計物理・非平衡物理・非線形科学などの物理科学方法論を発展的に適用しながら、エネルギーや物質の流れのなかでの自律的システムとして生命を理解することを目的として、生体分子モーター1分子の振る舞いを、非平衡開放系すなわち常にエネルギーが流入している散逸条件下において、その1分子内部のサブユニット間での協同的な働きをシステムとして捉えなおす研究を実施した。 申請者は本年度より、東京大学工学系研究科物理工学専攻の富重研究室へと研究機関を移動した。そのため、まずは回転分子モーターの観察系の再構築を新規研究機関にて行った。具体的には、申請者がこれまでの研究で独自に開発した個々の触媒サブユニットヘ特異的に変異を導入するHybrid F_1-ATPaseの再構成手法を本研究機関で立ち上げ、分子の内部状態の解釈まで可能にした1分子回転観察を可能にした。さらに、あらたな角度解析プログラムの開発を行って解析をやりなおした結果、前年度に成果として得ていた、これまで発見されていなかった新たな回転ステップの素過程(約20度のSub-substep)が、再現性のある確かな事象であり、また各種変異体で普遍的に起こる事象であることが確認できた。この結果は、F_1という回転分子モーターの回転メカニズムにとっての新たな発見となるだけでなく、生体分子機械がいかにして反応を力学運動に変換しているかを解き明かす鍵となる成果である。こうして実験的にも確かめられた新たなモデルについては、2008年12月の日本生物物理学会第46回年会にて発表を行った。
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