昨年度に引き続き、Brookhaven National LaboratoryのF.Karsch教授との共同研究として行っている格子ゲージ理論を用いたクォーク伝搬関数の解析を進めた。特に、解析を有限運動量に拡張し、臨界温度近傍の非閉じ込め相においてクォークが持つ二種類の励起状態の分散関係を調べ、このような温度領域においても分散関係が高温極限と同じような振る舞いをするという興味深い結果を得た。また、解析を前年度より広い温度領域に拡張した結果、伝搬関数の振る舞いは閉じ込め相と非閉じ込め相で極端に異なること、特に非閉じ込め相ではクォークの励起状態が存在するのに対し、閉じ込め相ではそれらのモードが出現しないことが分かった。これらの結果は、素朴に期待できることとはいえ第一原理計算で結果が得られたのは初めてのことであり、今後有限温度閉じ込め相転移の理論的理解を進める上でも有用な情報となることが期待される。 またその一方で、前年度から行っている湯川模型を用いた超相対論的フェルミオン・ボソン系の解析を、素励起の解析からレプトン対生成レートの解析へと幅を広げる研究を京都大学の国広悌二教授らと進めている。 また、これらクォークの励起状態が有限温度で示す性質の変化に着目した研究を進める一方で、本年度は格子ゲージ理論を用いてクォーク・グルオン・プラズマ状態の粘性係数を第一原理的に求める試みも新たに始めている。この研究では、従来このような解析でよく用いられていた久保公式を使う手法とは異なる独自の導出方法を提案し、また実際にこの方法を数値シミュレーションで試してみることを行った。
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