前年度の研究で得られた成果を基礎に、多項式環の部分環と自己同型の研究をさらに発展させた。また、年度後半には2年間の研究を総括し、今後の研究の方向性を探った。 前年度は、標数が零の体上の多項式環の自己同型群の構造について研究し、ShestakovとUmirbaevの理論の精密化と一般化を与えた。本年度はその成果を受け、標数が正の体上の多項式環の自己同型群の構造の解明に取り組んだ。標数が零の場合に比べ、標数が正の場合に有効な手法はそれほど多く知られていない。標数が零の場合には「解析的」な手法が極めて有効であり、ShestakovとUmirbaevの理論でも決定的な役割を果たした。そこで、そうした「解析的」な手法を、標数が正の場合にも適用できるようにするために、必要となる理論の整備に取り組んだ。一般に、標数が零の場合には、通常の微分法や積分法の理論の類似が成立する。しかし、標数が正の場合には、「指数が標数の倍数の単項式を微分すると0になる」という特異な現象が生じるため、「解析的」な手法の使用には様々な困難が伴う。それを回避するための方法として「高次微分」の概念に注目し、効果的な利用法を検討した。「高次微分」には合成関数の処理が複雑になるという致命的な短所がある。しかし、核の構造を分析することを手掛かりに、部分的な成果を得ることができた。また、異なる方向からのアプローチとして、2変数の場合のMakar-Limanovの結果に着想を得て、基礎体の標数に依存しない「イニシャル代数」の構造に関するある定理を証明した。その帰結として、古典的な結果であるvan der Kulkの定理の証明を簡略化した。また、3変数以上の場合を扱うための手がかりも得た。 年度後半には、研究期間を通して得られた成果を再吟味し、今後の発展の可能性を探った。また、関連分野の研究集会で研究成果を幅広く公表するとともに、論文としてまとめて専門誌に投稿した。
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