1.強磁性体における異常ホール輸送現象(強磁性体におけるゼロ外部磁場で生じるホール効果)は、強磁性体としての基本的かつ重要な性質の一つであるが、その理論的理解は十分ではなかった。我々は量子輸送理論を用いて、異常ホール効果に2つのクロスオーバーを見出し、広範な強磁性物質群における実験結果の統一的説明に初めて成功した。電子の散乱確率が小さい場合にはスキュー散乱による外因機構のためにσ_<xy>∝σ_<xx>が、散乱確率が増大すると散逸のないバンド固有な内因機構のためにσ_<xy>〜一定が、伝導性の悪い金属ではσ_<xy>∝σ_<xx>^<1.6>が成立する。この研究成果は、100年の歴史をもつ異常ホール効果の機構について統一的な理解を与えるもので、基礎科学的に意義が高い。 2.モット絶縁体における磁性・誘電性結合の一つとして、近接する2つの局在スピンのベクトル・カイラリティーの一様成分が、通常、強誘電性もたらすことが知られている。そこで遷移金属酸化物の強束縛近似模型にスピン軌道相互作用と強いクーロン相互作用を取り込み、強結合展開法から磁性と誘電性の結合を計算した。電気分極に寄与しうる機構として、磁気歪、ベクトル・カイラリティー、1イオンスピン異方性の3つを導出し、結合定数を微視的に求めた。現在重点的に研究されているマルチフェロイクスに対する基本研究として重要である。 3.電子スピンのスカラー・カイラリティーを内在した強相関電子系金属Pr_2Ir_2O_7の第一原理計算を、スピン軌道相互作用を考慮しながら、ノンコリニア磁性の扱いが可能なLDA+U法を用いて行った。状態密度、バンド構造などの基本的な性質を明らかにした他、様々な磁気秩序状態のエネルギーが拮抗した、金属系でのスピン・アイスという新しい状態として、この系が解釈されうることを示した。
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