堆積物や生物殻体中の含窒素有機化合物の窒素同位体比解析は、これらの分子を合成した当時の光合成生物の窒素同位体比や当時の生態系構造を復元することができ、過去の地球環境の窒素サイクルを知り得る唯一のツールである。本研究では、この解析法の実試料への応用として、生体・生物殻体(有孔虫の殻等)・堆積物試料からのクロロ色素・フェオ色素・アミノ酸の窒素同位体比を測定し、現在及び過去の海洋環境の窒素サイクルの復元に取り組んでいる。 本年度は、現世〜過去の年代スケールの異なる様々な試料中のクロロフィル・アミノ酸の安定窒素同位体比分析を行い、生態系や海洋窒素サイクルの復元に対しての本研究手法の有用性・汎用性を評価した。昨年度の研究結果をふまえ、実試料として、日本海の海成頁岩(数千万年前)・海洋堆積物(数百万年前〜現在)・生物化石(数万年〜現在)・ホルマリン固定生物(数十年前〜現在)・貝殻(数年前〜現在)等を用いた。その結果、クロロフィルとその続成産物の安定窒素同位体比からは、数千年前〜現在までの試料について、当時の海洋一時生産者がどのような環境(とくに、窒素環境について)で生きていたのかをうまく復元することが可能であり、アミノ酸(とくに、グルタミン酸とフェニルアラニン)の安定窒素同位体比からは、数万年〜現在までの、生態系食物連鎖の情報を精度よく復元できることが明らかになった。これらの結果は、9月の日本地球化学会年会等で発表し、また論文にまとめて発表する。 また、本手法の陸上植物や昆虫等の陸上試料への応用を試み、本手法が海洋環境だけでなく陸上環境にも適応可能あることを明らかにした。
|