研究概要 |
表面反応の反応特性は、表面の構造や電子状態に大きく依存する。強誘電体結晶に高周波を印加したときに生じる弾性表面波(surface acoustic wave, SAW)を利用して金属薄膜に動的格子変位を誘起し、その表面で起こる反応の活性や選択性を変化させることができるが、触媒反応制御のための重要な技術として注目されている。しかし、その物理化学的な機構に関しては、あまり理解が進んでいない。SAWによる表面の電子状態、幾何構造、吸着種や反応中間体の状態の空間分布を対応させて観測し、その反応制御の機構を解明することを本研究の目的としている。今年度は、表面の電子状態の空間分布を観測するため、第二高調波発生(SHG)顕微鏡システムを立ち上げ、SAWによる表面電子状態の変化の観測を行った。なお、このシステムは、吸着種の空間分布を計測するための和周波発生(SFG)顕微鏡測定にも利用できる。 物質に強力なレーザー光を照射した時にもとの半分の波長を持った新しい光が放出される現象をSHGと言う。これは異種物質の界面でしか起こらず、励起に可視~紫外光を用いると、金属の電子状態の変化を鋭敏に反映する。そこで、金属薄膜からのSHGを観測することで、最表面の電子状態の変化を選択的に検出することができる。SAWにより格子変位が起こっている銀薄膜に800 nmのピコ秒パルスを照射し、SHGシグナルを空間分解検出した。その結果、SAWの効果により、2-3%程度SHG強度が増加することが分かった。これは、SAWによって銀表面の電子状態に何らかの変化が起こったことを示している。その空間分布を調べたところ、SAWの波長に対応する空間分布は観測されず、SHG強度の増加は空間的に均一であった。つまり、SAWによる電子状態への影響は、局所的に変位の振幅が大きいところだけで起こるのではなく、非局在化していることが示唆された
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