物質界面や表面はしばしば、特異な化学現象(例:化学反応)や物性(例:電荷輸送)の発現の場となるが、それらの発現機構を解明するための基礎として、温度や雰囲気などの環境変化、電位や圧力などの外力の印加に際して、表面や界面を構成する構造の化学状態や幾何構造、電子状態がいかに変化するのかを知ることが非常に重要である。一般に、埋もれた界面に存在する分子の幾何構造や電子状態に関する情報を得ることは容易ではない。その中で、和周波発生振動分光法(SFG)は、界面の分子振動スペクトルや電場強度を選択的に測定することのできる稀な手法である。我々は空間分解してSFG測定を行うことのできるSFG顕微鏡システムを立ち上げた。これを用いて、化学反応や電荷輸送現象が起きている表面や界面の状態の空間分解観測を行うための基礎技術の確立と、界面における電子状態の変化が物性を決める重要な例として、有機電界効果トランジスタ(OFET)の半導体/絶縁体界面の観測を行った。OFETは、有機エレクトロニクスの重要な要素として注目されているが、電荷注入、輸送の機構に関しては不明な点が多い。本研究において、電極界面の電荷の空間分布を高感度に計測することに成功した。以前より、電極の間で電荷が均一な勾配をもって変化するというモデルが提唱されており、それに従う電荷分布が予想されたが、実際には電場近傍で急峻な電場勾配が起こっていることが明らかになった。こうした電場勾配が生じる理由については、今後の詳細な研究を待つ必要があるが、OFETという実用的に重要でありながら本格的な実用化に至っていない試料について、界面で電流を担う電荷の空間分布を直接捉えることができたことに意義がある。
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