近年の環境調和を指向した有機合成の実践という観点から注目される有機酸触媒の新たな触媒系として、研究代表者らは光学活性ビナフチルジカルボン酸の開発に取り組んでいる。その特異な酸性度および不斉環境を利用した予備的な研究成果として、すでにジアゾ酢酸エステルのマンニッヒ反応が同触媒によって効率的に進行し、β-アミノ酸誘導体などに容易に変換可能な有用化合物が高いエナンチオ選択性で合成できることを見出していた。本研究期間(平成19年度)において代表者らは、ジアゾ化合物としてジアゾリン酸エステルを用いた類似の付加反応に着目し、研究を推進した。本反応によって得られるβ-アミノリン酸誘導体は、薬理活性などの観点から興味深い構造であるにもかかわらず有効な不斉合成法の存在しなかった化合物群である。検討の結果、種々のN-Bocイミンに対するジアゾリン酸エステルの付加が同触媒によって円滑に進行し、最大96%eeと良好な選択性の発現が確認された。なおこれら結果は併せてアメリカ化学会誌に掲載された。さらに、最新の研究成果としてジアゾアミドとN-Bocイミンを用いた不斉アジリジン化反応が光学活性ビナフチルジカルボン酸触媒によって高効率的に進行することも見出している。光学活性ルイス酸触媒によって達成される類似の不斉アジリジン化反応がシス体のアジリジンを主生成物として与える事実と異なり、今回我々が開発した反応系ではトランス体のアジリジンが選択的に得られるという興味深い知見も得られている。
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