有機酸触媒を利用した触媒的不斉合成においては、その水素結合供与体の酸性度が反応実現の鍵であるため、光学活性アルコール、チオ尿素、リン酸などのようにそれぞれ反応系に応じて使い分ける必然性が生じる。しかしながら、もっとも一般的な弱酸であるカルボン酸を有機酸触媒として用いた報告は、研究代表者が平成19年度の若手スタートアップにおいて軸不斉ジカルボン酸の創製とさらに高エナンチオ選択的不斉マンニッヒ型反応に成功した例を除いてほとんど存在しない。そのような現状において、本触媒に特異的な新しい分子変換の開発を指向し平成20年度の研究を行った結果、そのひとつとして高エナンチオ選択的不斉イミノアザエナミン反応の開発に成功した。本反応系では他の有機酸触媒と比較し立体選択性に優れていることのみならず、芳香族由来のアザエナミンを利用することに初めて成功したことも特筆すべき点である。なお生成物はオゾン分解などの簡便な官能基変換により光学活性α-アミノケトンに変換可能であることから高い合成的価値を有する。またもう一つの重要な成果として、既存のルイス酸触媒においてはシス体が優先することが知られているジアゾ化合物とイミンとのアジリジン化反応において、軸不斉ジカルボン酸を触媒としてもちいることによりトランス体を高立体選択的に生成することに成功した。本研究成果はジアゾ化合物とイミンを用いて光学活性アジリジンを合成する触媒として有機分子が有効であることを初めて明らかにしている点でも興味深い。
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