研究概要 |
(1)二つの7員環を縮環したベンゼン環骨格を有する新規なP-C-Pピンサー型三座配位子を開発し、これを用いてパラジウム、ニッケル、および白金錯体の合成および単離に成功した。このP-C-Pパラジウム錯体のアルデヒドのアリル化反応における触媒活性を調査したところ、類似のS-C-Sパラジウム錯体よりも高い活性を示すことが分かった。また、リン上の置換基が異なる様々なP-C-Pピンサー型三座配位子の合成に有用な汎用性の高い前駆体の開発にも成功し、これを用いてジフェニルホスフィノ基をもつピンサー型三座配位子を得ることが出来た。今後は、この汎用的な前駆体を用いてリン上の置換基としてt-Bu基などのアルキル基を導入した三座配位子を持つ遷移金属錯体の合成と触媒活性を検討したい。 (2)1,1-ジフェニル-2,2,2-トリフルオロエタノール骨格を持つ強固な新規三座配位子によって位置異性化反応を適度に抑制し、単座配位子として二つの異なるアリール基を有する様々な5配位アンチモン化合物の合成に成功した。それらの位置異性化反応の速度論測定を行ったところ、アンチモン化合物としては非常に高い活性化エネルギー(28kcal/mol)を有することが分かった。分子軌道計算によって遷移状態における各原子のforce vectorを解析したところ、この異性化反応がTurnstile rotation(TR)によって進行していることが分かった。これは、TRによる異性化の存在を初めて実験的に証明した例である。更には、ドナー性溶媒(THF, MeCN)によって異性化が大きく加速されることも見出した。速度論解析および分子軌道計算の結果、ドナー性溶媒のアンチモン原子への配位によって、遷移状態が大きく安定化されていることが明らかとなった。今後は、更に様々な置換基を持つ誘導体の速度論解析を行い、TR機構のより深い理解を目指したい。
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