平成19年度は遺伝多型を持つ薬物代謝酵素NAT2の立体構造の精密化を行った。また、UGTのホモロジーモデリングについても実行している。NAT2の立体構造については、実験的に得られた構造を分子モデリングによって修正し、得られた構造を分子力学計算および分子動力学シミュレーションによって精密化した。その結果として、補酵素であるアセチルCoAの存在がNAT2のリガンド認識部位の構築に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。アセチルCoAがアセチル基の供給源としてのみならずポケット構築にも寄与しているという結果は、今後NAT2を計算機的に解析する際の重要な指針となる。UGTについては、遺伝多型の影響が大きく、かつ立体構造が未知の分子種UGT 1A1のホモロジーモデリングを行った。テンプレートとしてはUGT 2B7を使用している。また、得られた構造の末端部分の修正にも着手している。さらに、分子力学計算において重要となる原子電荷および力場パラメータについても、量子化学計算を使用して算出している。特に硫黄を含有する補酵素Aについては第二周期元素と比べて十分なパラメータ化が行われていないため、量子化学手法の選択から行い、高精度なパラメータの構築を目指している。 薬物代謝酵素の遺伝多型は、医薬品の薬効および副作用の発現に深く関与している。そのため遺伝多型の薬物代謝に対する影響を計算機的に予測することは医薬品開発において重要となるが、本年度の成果である代謝酵素NAT2、UGT 1A1の立体構造のドラフトモデルはその際に有用となることが期待できる。
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