平成20年度は薬物代謝酵素NAT2に対して基質イソニアジドのドッキングを行った。また、UGTlAlに対する分子シミュレーション計算も行い、リガンド結合部位の特徴の評価についも行った。さらにNAT2に含まれるアセチル補酵素Aの計算に必要な分子力場パラメータについても、量子化学計算を用いて算出した。まずNAT2については、分子動力学(MD)シミュレーションによる構造精密化を行った後イソニアジドをドッキングし、さらにその構造をMDシミュレーションによって再度精密化した。これによってイソニアジドがアセチル基近傍に位置するモデルが得られており、NAT2におけるイソニアジドのアセチル抱合と対応するモデルとなっているのではないかと考えられる。また、この際にNAT2のシステイン残基と補酵素A(あるいはアセチル補酵素A)との間の結合形成・解離がイソニアジドの分子認識に影響を与えている可能性についても示唆された。またUGTlAlについては、前年度に得られたホモロジーモデルに対してMDシミュレーションによる構造精密化を行い、さらにリガンド結合ポケットの探索によってそのリガンド認識部位の同定も行った。この際、ジスルフィド結合の有無がUGTlAlの活性に与える影響についても推測を行った。さらにシミュレーションに必須の力場パラメータの算出においては、高精度計算手法CCSD(T)/aug-ccpVTZを用いて算出した。 薬物代謝酵素の遺伝多型は、医薬品の薬効および副作用の発現に深く関与している。本年度の成果より代謝酵素NAT2およびUGTlAlのリガンド認識に一定の知見が得られており、副作用予測等において有用となることが期待できる。
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