数個の原子の集合体であるクラスターの内殻励起過程は、原子間相互作用により単独原子には見られない特徴的な現象を示す。本研究では、15個程度の小さいサイズのクリプトンクラスターの内殻励起過程をX線吸収分光法、共鳴オージェ電子分光法を用いて調べた。実験はUVSORの軟X線アンジュレータービームラインBL3Uで行った。クラスターは高圧ガスをノズルから真空中に放出することにより作成した。昨年度に作製した飛行時間型質量分析計を用いて、クラスターへのX線照射により生成したダイマーイオンの総量の測定を、X線エネルギーを変えながら行った。この過程の終状態は一価イオンとRydberg電子となるが、クリプトン原子の5p軌道の平均距離が原子間距離に近いため、Rydberg電子と最近接原子との間の交換相互作用に起因するエネルギーシフトが観測された。6p軌道はより広がっているため、交換相互作用は弱くなる。次に半球型電子分光器を用いて、クリプトンクラスターの共鳴オージェ電子スペクトルの測定を行った。この過程の終状態は二価イオンとRydberg電子となるが、このときのクラスターのエネルギーシフトから、Rydberg軌道の交換相互作用が二価イオンになると増大することが分かった。これは二価イオンによりRydberg軌道が収縮されるためであり、Rydberg軌道と最近接原子の重なりが増大したことによる。このようにクラスターの内殻励起過程において、Rydberg軌道の交換相互作用が重要な役割を果たしていることを明らかにした。交換相互作用は短距離相互作用であるため、Rydberg軌道の交換相互作用はクラスターの構造を調べる上で有用である。
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