本研究は機能性共役系ジシレンオリゴマーの応用へむけた合成法の開発および構造、物性の比較を目標としている。初年度である平成19年度は、合成法の開発において重要な中間体となるハロゲン置換ジシレンの合成について主に研究を行い、その合成を達成した。本年度は、オリゴマー化へむけて鍵反応となるジブロモジシレンのジアリール化反応について集中的に研究を行った。 様々な立体保護基をもつジブロモジシレンを合成し、フェニルリチウムによるフェニル化反応について詳細な研究を行った。このジブロモジシレンとフェニルリチウムとの反応は、ジシレン上の置換基の嵩高さにより顕著に変化することを明らかにし、比較的嵩の小さなジブロモジシレンを用いることで目的のジアリール化反応が進行することを見出した。このジアリール化反応は、共役系オリゴマーの段階的な合成において重要な反応であるばかりでなく、これまでに合成困難であった様々なアリール基を導入したジシレンの合成が可能になる。この反応を応用し、様々な電子的効果をもつアリール基を対称型、または非対称push-pull型に導入することで、ジシレン共役系の機能をさらに引き出すことができると期待される。そこで様々なアリールリチウムとジブロモジシレンとの反応について研究を行い、電子供与性の強いアニシル基を導入したジシレンおよびp-ジメチルアミノフェニル基と、ペンタフルオロフェニル基をpush-pull型に導入したジシレンを合成することに成功した。これらの紫外可視吸収スペクトルにより、置換基の電子的効果による吸収波長および吸光係数の変化が観測された。この結果は、ジシレン-炭素パイ共役系の電子的なチューニングにおいて先駆的な研究であり、将来的な機能性分子への応用に向けて重要な知見であるといえる。
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