研究概要 |
金属と誘電体層が交互に存在する多層膜系では,それぞれの界面での表面プラズモンが結合し,一体となったモード(Coupled SPP)が存在する。本研究では金属・誘電体のCoupled SPPに付随する増強電場を利用し金属ナノ構造と発光体が一体となった系における,新奇光機能性の発現を目的として研究を行った。 当年度の研究成果としては,まず金属・誘電体の多層構造の作製及び,作製条件の最適化を行った。作製方法は,真空蒸着法を用いAuまたはAgの金属層と誘電体層を交互に堆積した。堆積した試料の膜厚は数ナノから数十ナノメートルの膜厚である。堆積させる膜厚によって膜質が変わるため,蒸着速度などの条件を最適化し,一定の膜質が得られる条件を見いだした。また,有機色素の発光層を多層膜上に蒸着いより作製し,安定した発光スペクトルが得られる膜厚条件を見いだした。また,この発光スペクトル測定において最適な分光特性を持った分光器が急遽必要となったため,申請書には主要な購入物品として自動ステージ等を予定していたが,研究遂行上やむを得ず15cm焦点距離分光器の購入を行った。 続いて,堆積した試料に対して,分光エリプソメトリーを用いて多層膜の誘電関数を求め,系全体としての光学応答を調べた。そして,それぞれの層の膜厚や層数をパラメータとして誘電関数を測定した。有効媒質理論に基づいた理論計算と比較を行い,実験で得られた誘電関数の妥当性を確かめることができた。 本年度で得られた研究成果は,次年度以降の発光体とCoupled SPPとのカップリングの最適化条件を探るために必要となる基礎的なデータであり,本研究の最終目標である回折限界を超えたナノイメージングの実現に向けての研究を遂行する上で非常に重要な結果である。また,金属・誘電体多層膜の誘電関数に関しての研究例は依然として少なくそれ自体が学術的に重要な結果であると言える。
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