平成20年度においては、ウェット酸化を利用したInAlAs/InP MOS界面の特性改善を目指した研究開発を行った。これまで試作作製においてはMOVPEとMBEでの結晶成長を用いてきたが、MOVPEで成長した試料ではC-V特性が劣化することが判明した。様々な酸化条件や試料構造を検討した結果、酸化前におけるInAlAs膜中の酸素原子量によって、ウェット酸化後の絶縁特性やMOS界面特性が大きな影響を受けることを見出した。ウェット酸化前にInAlAsが自然酸化されてしまうことにより、リーク電流や界面準位が増大することが分かった。そこでInAlAsに薄膜InPキャップ層をつけることで、ウェット酸化後において大幅な特性改善が得られることを見出した。これによりMOVPEにおいても良好なInAlAs/InP MOS界面を再現性よく作製することに成功した。またウェット酸化機構を明らかにするため、ドライ酸化を利用したInAlAs/InP MOS構造の作製も行った。作製したInAlAs酸化膜をXPS等で詳細に分析した結果、ウェット酸化においてはAs原子がほとんどないのに対して、ドライ酸化においてはAs原子はそのまま膜中に存在していることが明らかとなった。ウェット酸化においては、単にInAlAsを酸化するだけではなくAsを脱理させる機構が働いており、これによりMOS界面特性が向上した可能性があることを明らかにした。ウェット酸化によるInAlAs/InP MOSのさらなるEOT低減やリーク電流の抑制を実現するため、酸化後SiO2薄膜でキャップしたMOS構造の作製も行った。キャップすることにより周波数分散が小さく、ヒステリシスもほとんどない良好なMOSキャパシタ特性が得られることが分かった。これらの研究により、ウェット酸化を用いたInAlAs/InP MOS構造の物理的特性、電気的特性を明らかにすることができた。
|