本申請研究では、分子性酸化物クラスターであるポリオキソメタレートおよびペルオキソメタレートの触媒活性点構造を原子レベルで制御し、触媒活性点上で酸化剤や基質の活性化を行い有害な副産物を生成しない酸化的官能基変換プロセスの開発を目的としている。今年度は、(1)セレンを中心元素に含む新規二核ペルオキソタングステート[(n-C_4H_9)_4N]_2[SeO_4{WO(O_2)_2}_2](触媒I)合成と(2)触媒Iによる過酸化水素を酸化剤とした高効率的酸素添加反応系の構築に成功した。(1)セレン酸とペルオキソタングステートとの反応を種々の分光学的キャラクタリゼーションにより詳細に検討した。タングステンに対して4当量のセレン酸存在下、テトラブチルアンモニウムを添加することで、有機溶媒に可溶な触媒Iの単離に成功した。触媒Iは、VI価のセレンを中心としたタングステン二核構造からなることが明らかとなった。触媒Iは、過酸化水素を酸化剤とするオレフィンのエポキシ化反応に従来のペルオキソタングステートやセレン化合物の中で最も高活性であった。また、基質:過酸化水素=1:1の量論条件下で、種々のアリル型アルコール・ホモアリル型アルコールのエポキシ化反応が化学選択的、位置選択的、ジアステレオ選択的に進行した。スルフィドの酸化反応においては、過酸化水素と基質との量論比を変化させることで、得られる生成物を変化させることができた。1当量の過酸化水素を用いた場合には対応するスルフォキシドを、2当量の過酸化水素を用いた場合には対応するスルフォンを高収率で得た。
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